職場における労働衛生基準が変わりました
2021年12月1日に「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令」が公布、一部を除き施行され、職場における一般的な労働衛生基準が見直されました。
女性活躍の推進、高年齢労働者や障害の労働者の働きやすい環境整備への関心の高まり等の社会状況の変化に合わせて見直しが行われたものとあります。
で、この「事務所衛生基準規則」と「労働安全衛生規則」ですが、知らないという人が結構多いのでは? と思います。そもそも、 「事務所衛生基準規則」 は第23条までしかないので読みやすいですが、 「労働安全衛生規則」 については、なんと第678条まである規則です……正直読む気がしない。ところがこれを見てみると「えっ!こんな決まりがあるの!」というところがあったりしますので、短くて読みやすい「事務所衛生基準規則」 のこんなところをご紹介いたします。
そもそも今回の改正で何が変わったのか?
今回の改正でのポイントはいくつかありますが、主なものとして
- 作業面の照度【事務所衛生基準規則 第10条】※2022年12月1日施行
- 便所の設備【事務所衛生基準規則 第17条・労働安全衛生規則 第628条】
- 救急用具の内容【労働安全衛生規則 第634条】
その他にもありますが事務所関係ではこの3点が主なところです。
詳細の内容に関しましては以下厚生労働省のウェブサイトよりご確認いただければと思います。
職場における労働衛生対策
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei02.html
事務所における労働衛生対策
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000207439_00007.html
トイレは男女別にするのが決まりだった!
で、この改正にもある「便所の設備」つまり、「トイレ」の事なんですが、これは結構知らない人が多いかと思いますが、以前の規則の内容では、
(便所)
第十七条 事業者は、次に定めるところにより便所を設けなければならない。
- 男性用と女性用に区別すること。
- 男性用大便所の便房の数は、同時に就業する男性労働者六十人以内ごとに一個以上とすること。
- 男性用小便所の箇所数は、同時に就業する男性労働者三十人以内ごとに一個以上とすること。
- 女性用便所の便房の数は、同時に就業する女性労働者二十人以内ごとに一個以上とすること。
- 便池は、汚物が土中に浸透しない構造とすること。
- 流出する清浄な水を十分に供給する手洗い設備を設けること。
となっており、実はトイレは「男性用と女性用に区別すること 」が義務だったのですが、今回の改正では
- 新たに「独立個室型の便所」が法令で位置づけられた
- 便所を男性用と女性用に区別して設置するという原則は維持されますが、独立個室型の便所を付加する場合の取扱い、少人数(同時に就業する労働者が常時10人以内)の作業場における例外と留意事項が示された
という内容に改正がされたのであります。
この、「独立個室型の便所」というのは「男性用と女性用を区別しない四方を壁等で囲まれた1個の便房により構成される便所」の事だそうです。なお、「便房」とは「男性用の小便器以外の便器を囲った空間」とのこと、男子トイレでいうところの「大」の場所です。
つまり、10人以下の事業所において、トイレが1つしかないようなところって結構ありますよね。
特に東京都内ではマンションなどで事務所を開設している方もいらっしゃると思いますが、今までは「違反」であったわけです。
まぁ、今回の改正で、こういったところが例外として認められるようになったというのは、ある意味で実情に即した形、また、テレワークを行う際にマンションの1室を借りてサテライト勤務にするという事も容易になったというところでは社会状況の変化に合わせた改正ということになります。
ただし、原則は今まで通り 「男性用と女性用に区別すること」 になっており、当然ながら10人以下であっても別々にすることが望ましいのは言うまでもありません。
トイレ基準の改正は良いことなのか?
私個人的には、この改正自体には比較的賛成寄りではあります。
多様な働き方を推進している現在では比較的小規模な事業所であれば、トイレを男女別にしなければいけないという負担はものすごく大きいものです。事務所物件を借りるなんてことになれば、正直スタートアップの企業からしてみたら結構大きいハードルだとは思っております。
なお、こんなこと書いている私も個人事業主ではあるので1人しかいませんが、事務所のトイレは「1個」です。
ところが、これが別の目線で見ると果たしていい改正なのか? というと、チョット考えものです。
私個人的にも、人が入った後にすぐにトイレに入るというのは、チョット気が引けますし相手も嫌だろうなと思ったりします。仮に便座に座ったときに、前の人のぬくもりがあると、チョット嫌だなぁ~って感じることもあるし、自分がう〇こしてるときにドアをノックされたら、次に来る人がいると思うと残り香が気になってしょうがない。これが男女兼用の1つのトイレでってなると……つまり、行きたいときに行けない。
行きたいときはコンビニのトイレを使いに要らない物を買いに行きそうな気がします。
いずれにせよ、従業員を雇うときには、男女共用トイレを嫌がる人もいるかと思いますので、面接時にこのような説明をすることも、ある意味ではリスク回避につながる事なのでは? と思います。
また、今まではあいまいになっていた点を改正により特例を認めたという事になれば、10人超の事業所の場合、その点を追及されてしまう可能性だって考えられますよね……まぁ今後どうなるのか見ていきたいところです。
その他にもある「えっ!」と思う規則
1・そろそろ年末「大掃除」
皆さんの会社でも年に1回「大掃除」ってやりますよね。
およそどこの会社でもそうだとは思いますが、これも実は法令で定められております。
(清掃等の実施)
第十五条 事業者は、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。
- 日常行う清掃のほか、大掃除を、六月以内ごとに一回、定期に、統一的に行うこと。
そうなんです。1年に1回の大掃除って思っていると思いますが、法令上はなんと「6か月に1回」です。
法令違反の企業続出ではないかと思います。
しかも、この第15条には続きがあります。
(清掃等の実施)
第十五条 事業者は、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。
- 日常行う清掃のほか、大掃除を、六月以内ごとに一回、定期に、統一的に行うこと。
- ねずみ、昆虫等の発生場所、生息場所及び侵入経路並びにねずみ、昆虫等による被害の状況について、六月以内ごとに一回、定期に、統一的に調査を実施し、当該調査の結果に基づき、ねずみ、昆虫等の発生を防止するため必要な措置を講ずること。
- ねずみ、昆虫等の防除のため殺そ剤又は殺虫剤を使用する場合は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第十四条又は第十九条の二の規定による承認を受けた医薬品又は医薬部外品を用いること。
ねずみや昆虫についても実は調査・発生防止の義務があります。
これまた、法令違反の企業続出ですね。
私が社労士になる前に在職した会社でこの防虫・防鼠の担当部署があったのですが、飲食店や食品工場などでは当たり前のように行われている、防虫・防鼠の作業も、実は事務所でも行わなくてはなりません。
2・寒いですよね「温度」
この記事を書いている12月ですが、1年の中でも寒い時期になってくる頃です。
この室内の温度に関しても法令上規定があります。
(温度)
第四条 事業者は、室の気温が十度以下の場合は、暖房する等適当な温度調節の措置を講じなければならない。
2 事業者は、室を冷房する場合は、当該室の気温を外気温より著しく低くしてはならない。ただし、電子計算機等を設置する室において、その作業者に保温のための衣類等を着用させた場合は、この限りでない。
室内が10度以下の場合には暖房をつけなきゃならないという事になります。
「暖房費がもったいないから服を着ろ!」なんて昭和初期チックな対応、暖房費をケチる行為は法令違反となりかねないという事になります。
また、冷房に関してはさすがに「クールビズ」の影響もあるのでしょうか、外気温より著しく低くしてはならないとあります。とはいうものの、最近の地球温暖化の影響で外気が「40度」近くになったときに室内が「28度」設定は結構著しいとは思うのですが、まぁ、この点は許されるんでしょうね……?
3・ポイ捨て禁止
私が中国で駐在をしていた頃、現地の工場の中や休憩所などは「ポイ捨て」の山でした。
まぁ、今でこそそんなことは無いですが、中国人ってごみをどこにでも捨てる習慣があったんですよね。何しろ、「ごみをそこら中に捨てても大丈夫、むしろ、ごみを掃除する人の仕事がなくなる」なんて屁理屈がまかり通っていましたので……。
そんなことはさておき、さすがに日本では以前よりそんなことは無いのですが、従業員の皆さんが決められた場所にごみを捨てるのは法令で定められております。
(労働者の清潔保持義務)
第十六条 労働者は、事務所の清潔に注意し、廃棄物を定められた場所以外の場所にすてないようにしなければならない。
従業員の皆様、決められた場所に捨てるのは「義務」なんです。
とは言え事業主の皆様、「ポイ捨てしたからクビじゃ!」なんてことは、簡単にはまかり通りませんのでご注意ください。
4・トイレ掃除
最初に書きましたトイレ規程には第2項があり、そこにはトイレの掃除に関して法令上の規定があります。
( 便所 )
第十七条
2 事業者は、便所を清潔に保ち、汚物を適当に処理しなければならない。
ここで、想像してしまうので社長さん自らがトイレ掃除をする画なんですが……。
事業者という考え方ですが、労働基準法上の「事業主」の概念とはちょっと違い、労働安全衛生法の事業者は、「事業を行う者で、労働者を使用するものをいう」となっています。すなわち法人または個人事業主ということになります。
社労士試験受験生ならば、押さえておかなければいけないところなんですが、普通、事業者と書いてあれば、経営者を想像してしまうのでは? と思いますよね。
言い換えれば、法人として清潔に保たなければなりませんので、皆様も会社のトイレ掃除には協力をしましょう。
まとめ
あまり目にすることが無い法令も、違った視点から見てみると、意外に面白いことや、大掃除2回にあるような「えっ!」と思う規定などを発見することができたりすることがあります。
例えば民法の「相隣関係」では、隣の家の木の枝が境界を越えたら切ってもらうよう言う事ができるのですが、根っこに関しては境界を越えたら自分で切っても良いことになってます。(民法第233条 竹木の枝の切除及び根の切取り)もっとも、実際のご近所付き合いの中で何も言わず根っこを切っちゃったりすればいざこざに発展することは間違いないとは思いますが、法律上そのようになっているとなると「へぇ~」って思ったりするわけです。
今回の法令に関しましても同様に「へぇ~」って思う事が多いものなりますが、皆様もこんなところから法律に興味を持っていただければと思います。
もっとも、法律で武装したからといって、実際のところ法律には例外というものがたくさんありますので、浅い知識で攻撃をすると返り討ちに合う可能性が多いので、そんなときは行政機関や専門家に相談をしましょう。