雇用関係の助成金って簡単にもらえるんでしょ!

そもそも、雇用関係の助成金というのは「雇用保険被保険者(以下「被保険者」という。)、被保険者であった者及び被保険者になろうとする者に関し、失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大その他雇用の安定、職業能力の開発や向上を図るため、一定の要件を満たした事業主又は事業主団体(以下「事業主等」という。)に対して、必要な助成を行うものである。」というもので、厚生労働省が中心となりおこなっているものです。

2020年よりコロナ感染症の流行により、多くの事業主様が受給した「雇用調整助成金」もあってか、雇用関係の助成金って誰もが知るメジャーな存在になってきました。

ネットなどでは助成金の情報を紹介したサイトもたくさんあり、その多くが非常に分かりやすく解説していることから、一見、「助成金って簡単にもらえるんだ!」と思いがちになりますが、結構大事な事を書いてなかったりします。

そもそも、労働関係法令の違反が無いことという事は前提条件なのは言うまでもありませんが、ここでは助成金を申請に関してのその他の知っておきたい点を見てみようと思います。

1・そもそも使った(使う)お金に対して助成される

これは助成金・補助金といわれるもの全般に共通なのですが、助成金や補助金は使った(使う)ことを前提として受給できることを条件としている場合が多いことを考えた方が良いという事です。

例えば、キャリアアップ助成金の正社員化コースの場合、有期から正規の場合57万円受給できるわけですが、令和3年度の基準では給与を3%増額することが条件となっております。
例えば、給与20万円もらっている人の場合、単純に206000円に給与をアップさせれば良いのですが、当然ながら、その金額を57万円で考えると最長でも「95か月」で消費していくことになります。残業や賞与にこの金額が係るようであれば、消費期間は短くなることに……。当然、それを織り込み済みの場合には大した問題ではありませんが、いずれ消費してしまうという事を忘れてはなりません。

また、最近の雇用調整助成金も、休業手当を支払っていることが前提となっておりますのはご存じの通り。
助成金や補助金の中には機器や設備に対して助成・補助されるものもありますので、特に高額な機器や設備の場合には、金額にもよりますが、助成率・補助率との兼ね合いを考えて経営上問題がないかの検討は非常に重要であると思われます。
どうも、特に助成金情報を網羅した社労士ではない民間業者のサイトではこの点の事が最初に説明されていないという感じを受けますので、その点はきちんと理解してください。

……もっとも例で紹介したキャリアアップ助成金の場合にはそれでももらった方が良いような気はしますが……。

2・計画の管理が重要です

助成金は期間管理や手続きの順番など、計画の管理が非常に重要となっております。
例えばキャリアップ助成金(正社員コース)の場合、受給の流れと支給申請まで期間のスケジュールはこんな感じ。(リーフレットの焼き直しですが……)

キャリアアップ助成金受給の流れ
キャリアアップ助成金支給申請期間

これって、助成金を受給したことのある人ならそれほど問題でもない事なんですが、まったく知らない人から見ると「はてさて……」という事にもなるかと思います。助成金それぞれに応じて、期間はマチマチなんですが、キャリアアップ助成金の正社員化コースの場合ですと、最初の雇用期間が6か月、正社員転換後6か月分を支給した翌日から2か月なんですが、日頃から忙しい中小企業の事業主様や総務担当者様ですと忘れがちになりかねません。実際、期間を間違えてしまったために受給できなかったという話を聞くこともあります。

自社が申請する助成金の条件に該当するかどうか、また、その期間内に、やらなければならないことがキチンと完了できるかという計画性を持つことができるのか? という事には検討が必要です。

3・すぐにお金が必要な場合は不向き

そもそも使った(使う)お金に対して助成されること、また、申請期間の計画のところでも見ましたが、基本的に、助成金は運転資金として考えるには不向きです。
雇用調整助成金では、事業主が休業させた従業員に支払った休業手当を助成するものなので、助成金の先払いは不可となりますし、休業手当を支払った後、ある程度の時間が必要になります。また、先に受給の流れの図を載せたキャリアアップ助成金に関しては、該当する有期雇用の従業員を雇用してから受給までに、1年半ほどの時間が必要になります。

当然ながら、支給審査の期間はマチマチである事を考えると「この時にこれだけのお金が必要!」というための資金にするという事はできないという事は理解しなければなりません。

まとめ

ここまで、面倒なことを書いていると、「じゃあ、助成金は申請しない方が良いのか?」という事はありません。むしろ、要件をクリアできているならば「申請すべき!」です。

そもそも、労働法に沿った形で事業を運営し、また、ある程度事業が円滑に回っており、人を雇用していこうと考えている企業様であるならば、「面倒」ではなく「当たり前」の事です。
当たり前の事が出来ているならば、助成金を申請することで、より良い雇用環境の整備を行う事が出来ます。

昨今のコロナ感染症の影響で雇用調整助成金などはニュースで不正受給の事が出ております。
行政としては経営が大変になった事業主様に対して「まずは早急に支給!」という緊急性の高いところから始まり、それによって助かった事業主様も多いと思いますし、今になって不正受給が出てきているという状況は、ある程度想定されたところではありますが、本来であれば、そう簡単には受給できるものではないという事。そもそもの「労働関係法令の違反が無いこと」、つまり「ちゃんと法律守ってますよ!」という事業主様へのご褒美として考えていただくのが良いのかな~と思います。

参考

事業主の方のための雇用関係助成金
(厚生労働省ウェブサイトより)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html