”いわゆる「シフト制」について”というトピックスが出ています。

2022年1月11日に厚生労働省のウェブサイトにて”いわゆる「シフト制」について”という適切な労務管理の留意事項にトピックスがリーフレットも併せて公開されました。

いわゆる「シフト制」について

(厚生労働省ウェブサイトより)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22954.html

ここでいうシフト制とは「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など)ごとに作成される勤務シフトなどで、初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような勤務形態」を指すとの事ですが、今回厚生労働省では「いわゆる「シフト制」で働く労働者の雇用管理を行うにあたり、使用者が現行の労働関係法令等に照らして留意すべき事項を、一覧性をもって示すことにより、適切な労務管理を促すことで、労働紛争を予防し、労使双方にとってシフト制での働き方をメリットのあるものとするため、留意事項を作成しました。」とのことで、まとまった内容のリーフレットがダウンロードできるようになっています。

結構前のリーフレットですが、自社はシフト制では無いという事業主の皆様に対しても、内容的には重なる部分もございますので、是非参考にしてもらいたく、今回は記事にしてみました。

それだけトラブルが多いんでしょうね?

「シフト制」って飲食業界や小売店などでは結構普通にあると思うんですが、今回厚生労働省がリーフレットを作成しているという事は、それだけトラブルが多いんでしょう……多分。

シフト制に限ったことではありませんが、私もこうやって社会保険労務士になる前は普通だと思っていたことが、本当はダメ! っていうケースって世の中にはたくさんあります。
事業主様が守っていないというか、「労働基準法を見ても詳しくは施行規則へ!」という感じで、その上、労働契約法や労働安全衛生法……そもそも、雇用環境を整えるために「情報を集めるのが大変!」という状況なんだと思います。なので、こうやって一貫性を持ったリーフレットがあると非常に分かりやすいなぁ~と思う限りです。

シフト制労働契約の締結に当たっての留意事項

労働条件の明示

労働条件を明示をキチンとしていない会社って結構ありますよね?
いわゆる「労働条件通知書」とか言われる書面ですが、社員には出しているけどアルバイトやパートには出していないとか、そもそも渡したことが無い(もらったことが無い)というケースも未だに聞きます。

この労働条件の明示は労働基準法で、必ず明示しなければならない事項(絶対的明示事項)、定めをした場合には明示しなければならない事項(相対的明示事項)が定められており、その方法は書面で行う事が義務化されております。

労働条件通知書 記載事項

リーフレットでは特に「始業・就業の時刻」、「休日」に留意するように出ておりますが、結局のところ、事業主様としては「シフトによる」とした場合に、自由に組むことができるという認識が多いのでは?と思います。実際私もそう思ってましたし……。本来は基本的な時間と休日に関しては基本的な考え方を示さなければならないので、その点は注意するべきところかと思います。

また、リーフレットでは「など」として記載しているので表示されておりませんが、例えば所定労働時間を超える労働の有無、交代で勤務させる場合の就業時転換に関すること、また、賃金のところでも、計算・支払い方法・締切りも絶対的記載事項にあたりますのでご注意ください。
詳しくは厚生労働省のウェブサイトよりご確認ください。リンク内のページより労働条件通知書のフォーマットもダウンロードできます。

採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。

(厚生労働省ウェブサイトより)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_4.html

従業員を雇った場合には必ず渡すようにしましょう。

定めることが考えられる事項

トラブル防止の観点から、シフト作成・変更・設定のルールを定めておくという事というのが次の留意事項で、「トラブルを防止する観点から、シフト制労働契約では、シフトの作成・変更・設定などについても労使で話し合って以下のようなルールを定めておくことが考えられる」という点です。

シフト作成の留意事項

最近のコロナ禍で突然休業しなければならない場合や、シフトの変更をせざるを得ない場合もあります。そのあたりの手続きについてキチンと定めておくと、突然言うよりかはトラブルは少ないのではないかとは思います。

就業規則の作成

常時10人以上の労働者を使用する場合には、就業規則を作成し、労働基準監督署に届出なければなりません。また、作成したら労働者がいつでも見れるようにしておく(周知義務)ことも必要となりますのでご注意を。(そこ、結構見落としがちです)

シフト制労働者を就労させる際の注意点

労働時間、休憩

御存じの通り、労働時間の上限は1日8時間、1週40時間(特例措置対象事業場は1週44時間)ですが、この上限を超えて働かせる(つまり残業)には36協定が必要、また、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、勤務時間の途中で与えなければなりません。ありがちなのは、36協定を出していない、休憩時間中に電話番などの業務を与えているケースですかね。小さな会社では36協定を出していない、出していても周知をしていないという事を聞く事が結構あります。また、休憩時間に業務をしたので賃金を払ったから……というわけにはいかず、そういう場合でも別途与えなくてはなりません。

年次有給休暇

こちらもご存じの年次有給休暇。
良くある話はパート・アルバイトだから有給休暇無いとか、シフト上の休みの日に有給休暇を入れろとかですよね。有給休暇に関しては会社が付与することを決定するのではなく、法律で決められていることですので、パートやアルバイトであっても、条件を満たせば付与されます。また、有給休暇は労働義務のある日に請求できるものなので、リーフレットに書かれているように「シフトの調整をして働く日を決めたのだから、その日に年休は使わせない」といった取扱いは当然NGとなります。

休業手当

シフト制に限らず労働者を、使用者の責に帰すべき事由で休業させた場合は、平均賃金の60%以上の休業手当の支払いが必要となります。

最近ではコロナ禍という事もあり、休業手当という考え方が一般的にも非常に浸透しておりますので、支払いが必要な時に支払わなかった場合にはトラブルに発展する可能性が高くなりますので、事業主の皆様はその点ご注意ください。
コロナ禍での休業手当に関することについては、以下厚生労働省のサイトにQ&Aがございます。
こちらの「4 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)」以下の項目をご参考にしてください。

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)

安全、健康確保

ここに関してはシフト制労働者であっても、労働安全衛生法に基づく安全衛生教育や健康診断の実施などの義務は同様ですので、ご注意を!

シフト制労働者の解雇や雇止め

解雇や雇止めのトラブルは昨今のコロナ禍のような特別な状況下の場合、また、年度末であったりすると特に問題として聞くことが多くなります。

解雇

期間の定めのある労働契約の労働者である場合「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」となっており、これはシフト制の労働者であっても同様です。
また、当然ながらその労働者が期間の定めのない労働契約の場合には「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には無効となります。

雇止め

期間の定めのある労働契約で、雇用期間を更新せずに契約を終了させることを雇止めといいますが、過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが期間の定めのない労働契約における解雇と社会通念上同視できると認められる場合や、有期労働契約の契約期間の満了時に、労働者がその有期労働契約が更新されるものと期待することに合理的な理由があると認められる場合において、使用者が雇止めをすることが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないとき」には、従前と同一の労働条件で有期労働契約が更新されます。

もし、期間雇用の場合で、期間を定めて雇用する場合、例えば、1年以上は雇用しない等の場合には「労働条件の明示」で明示をすることが重要となりますのでご注意ください。

その他(募集・採用、待遇、保険関係など)

募集

労働者の募集、つまり求人募集をする際には、労働条件の明示が必要となります。
この辺のトラブルも結構聞きますよね。求人情報の内容と実際が違っていたとか……労働条件を契約の締結までに変更する場合には、当たり前のように変更内容の明示が必要となります。

均衡待遇

まぁ、この辺のところも事業主様はご注意いただく事が必要かな? と思います。どうしても、「パートだから!」という考え方をお持ちの方も多いので……。

同一労働同一賃金特集ページ

(厚生労働省ウェブサイトより)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html

社会保険・労働保険

シフト制の労働者であっても、当然労災保険の適用、給付の対象となります。当然、1週間の所定労働時間が20時間以上で31日以上雇用されることがみこまれるとなれば、雇用保険の被保険者にもなりますし、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が正社員の4分の3以上となれば、厚生年金・健康保険の被保険者となります。社会保険の適用範囲に関しましては、500人を超える企業であれば、範囲も広がりますし、社会保険の適用拡大の改正もある事から、この点にも注意が必要かと。

社会保険適用拡大 特設サイト

(厚生労働省ウェブサイトより)
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/

まとめ

さて、こういった相談を行政に行うときに、いったいどこに相談したらいいか分からないという事が結構ありますが、今回、リーフレットの最後に問い合わせ先がまとめてあります。
こちらも結構役立ちますので、分からないことがあれば相談をしてみましょう。

シフト制の労働契約、労働条件全般総合労働相談コーナー
(都道府県労働局と労働基準監督署等に設置)
労基法、安衛法、労災労働基準監督署
募集・採用、雇用保険公共職業安定所
職業安定法都道府県労働局
社会保険年金事務所(健康保険の場合はご加入の健康保険組合)

有給休暇、退職、解雇、雇止め。
労働の相談で多い内容に関しては、やはり事前の説明がなされていないことによるトラブルが多いのが原因ではないかと感じることが多いと感じます。

そんなトラブルに発展しないためには事前にルールをキチンとしておくことが重要です。
自分たちはきちんとできていると思っている事業主様は、より注意をしていただき、今回の内容に「まずいかも……」というふうに思われている事業主様は、リーフレットの内容を参考にしていただき、行政や顧問の社労士の先生などにご相談するなどしていただき、トラブルが発生しない労務環境を整えていただければと思います。