外国人と年金
外国人の労働者を雇用すると「年金や健康保険に加入したくない」という話少なからず聞く話ではあります。確かに、健康保険ならいざ知らず年金に関しては「数年後に帰国するので、払っても意味がない」という事を考える外国人は多いと思います。何しろ、20年前ぐらい前の中国では国内の年金制度が省をまたぐと記録があやふやになる事や通算ができないなどの問題点を抱えていた時代で、自国の年金ですら払いたくないという事もあったぐらいです。
私は現在社労士ですので、「一応」年金に関しましては専門家ではありますが、そもそも、日本の年金制度って日本人でもわかりにくいと思っています。実際、私も社会保険労務士試験をチャレンジしていなければ年金制度についての理解など「全く」と言っていいほどしていなかったです。
とはいえ、年金の納付は義務です。
外国人のそばにいる人、あるいは企業の担当者様が、納付の猶予・免除制度や脱退一時金のことなどを説明出来たらという思いで今回の投稿を書いてみました。
外国人のそばで支援をしてあげている人、企業の担当者様は是非読んでみてください。
日本の公的年金は国民年金と厚生年金の2種類
日本の公的年金とは「国民年金」と「厚生年金」の2種類となります。
細かく説明すれば長くなるので、簡単にまずは大前提から。
- 1階部分の「国民年金(基礎年金)」には20歳以上でありますと必ず加入することになります。
- 2階部分の「厚生年金」には会社員や公務員などが入ります。(国民年金第2号被保険者といいます。)
さらに追加で説明をしますと、
- 自営業や学生は例外はありますが厚生年金には加入しません。(国民年金第1号被保険者といいます。)
- 厚生年金を支払っている人の場合、厚生年金に加入すれば国民年金(基礎年金)部分は納付したことになります。また、厚生年金の保険料は被保険者と雇用する企業で半々で納付します。
- 厚生年金を納付している人の配偶者で専業主婦(夫)であれば、国民年金には加入していることとなります。(国民年金第3号被保険者といいます。)
ざっとこんな感じです。
どんな時に年金をもらえるのか?
外国人に限らずですが、どうしても「年金」というと65歳を過ぎた時からもらえる「老齢年金」のイメージが強いですが、受給できる要件を満たせば、障害を負った時にもらえる「障害年金」、亡くなったときに配偶者・子供などの遺族がもらえる「遺族年金」があります。
ただし、老齢年金同様、その他の年金をもらうためには年金の保険料を納付していること、それぞれに保険料納付要件というものがあります。
詳しくは以下日本年金機構のウェブサイトを確認してください。
【年金の受給】
(日本年金機構ウェブサイトより)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/index.html
留学生の場合は「学生納付特例制度」を利用すべき!
留学生の場合、日本で生活をしていくうえで収入が限られていることから、年金の納付は日本での生活上、非常に負担となりますが、「学生納付特例制度」利用すればその負担が軽減されることとなります。
「学生納付特例制度」とは前年所得が基準以下の学生の場合、国民年金保険料の納付が猶予される制度の事です。納付の猶予は受給できる年金額には反映されませんが、「未納」とは違います。納付猶予をした場合には、10年以内であれば保険料をさかのぼって納めること(追納)で受給できる年金額にも反映が可能です。保険料を納められないときは、未納のまま放置せず学生納付特例を申請するようにしましょう。
この制度のメリットは
- 老齢基礎年金を受け取るために必要な期間(受給資格期間)に算入される。
- 病気やけがで障害が残ったときに障害基礎年金を受け取ることができる。
となります。もし、学生納付特例制度を利用しなかった場合の例を以下図に挙げてみました。
また、在留資格を「特定技能」に変更する場合、年金を支払っているかは条件となっていること、また、就労系のビザの場合、現在は特に要件とはなっていないようですが、実際の申請の際には健康保険などの社会保険料の納付に関しては提出を求められる場合があるようで、今後、社会保険料の納付が要件になる可能性もあります。特に、留学後就職をする場合などには注意しましょう。
また、学生納付特例は「保険料免除期間」に該当します。追納をしなかった場合、年金の受給額には反映されませんが、その期間は受給資格期間となるため、その後に就職をした場合に学生納付特例の「保険料免除期間」と厚生年金を納付した期間の合計で10年以上となった場合には老齢年金の受給資格を得ることになります。(この場合では、脱退一時金の支給要件は外れてしまいます。)
以下、学生納付特例制度の情報をリンクしていますので、確認してみてください。
【国民年金保険料の学生納付特例制度】
(日本年金機構ウェブサイトより)
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150514.html
【学生納付特例対象校一覧】
(日本年金機構ウェブサイトより)
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/gakutokutaisyouko.html
【学生納付特例制度のポイント リーフレット】
(日本年金機構ウェブサイトより)
https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/seido-shikumi.files/LN15.pdf
脱退一時金で外国人従業員のモチベーションのアップに!
年金の「脱退一時金」という制度は日本人の人はあまり知らないのではないかと思っております。
そもそも、日本人は年金を例外を除けば納付しなければならず、年金を脱退するという事はできないことと、また、脱退一時金をもらうための条件の一番として「日本国籍を有していない」という条件があるからです。
とは言ってはみたものの脱退一時金の裁定件数は外国人労働者の増加と共に年々増加しております。
令和元年度の厚生年金保険・国民年金事業年報によりますと、令和元年に裁定がされた「厚生年金」の脱退一時金の件数は「103,495件」、また、令和2年度の「外国人雇用状況の届出状況」によれば、外国人労働者といわれる人の総数は172.4万人、そのうち脱退一時金を請求することが出来るであろうと思われる在留資格、当然ながらその中のすべてが該当するわけではありませんが、「技能実習」が 402,356 人、「専門的・技術的分野の在留資格」が 359,520 人の合計75万人となっておりますので、結構活用されていることが分かります。また、1件当たりの金額は「434,202円」で、もらえる金額も少ないものではありません。
2021年4月より同年4月以降に年金の加入期間がある場合、脱退一時金の支給額計算の上限が従来の3年から5年に引き上げられました。これは、特定技能1号の創設により期限付きの在留期間の最長期間が5年になったことも影響しております。
私個人の考えとしてはこの制度を外国人を雇用する企業側が帰国後にも働いてくれた従業員に対して対応をしてあげることで、外国人労働者の仕事に対するモチベーションを上げる一つの方法になると思っております。
基本的に外国人のコミュニティーというのは非常に情報交換が盛んです。これは日本にいる外国人だけではなく、外国人という立場で実際に駐在を経験した私も非常に共感できるのですが、企業の大小・業種・年齢を超えて同じ地区で働いている日本人同士での情報交換は非常に盛んで、自分が海外で生活をしていくための支えにもなっておりました。同様に日本に住む外国人労働者にとってはコミュニティーからの情報で、日本での生活・仕事のことを日本で生活するときの支えとしていることも多いかと思われます。
もし、そのコミュニティーの中で帰国後に「脱退一時金を働いていた会社で申請してもらった」という事がコミュニティーの中で広まった場合、その会社に対する外国人の従業員からの信頼度は大幅にアップすると思います。
脱退一時金と社会保障協定について
脱退一時金を申請する前に、ご自身の母国が「社会保障協定」を締結している国かどうか確認する必要があります。
社会保障協定とは、国際間の人的移動に伴い、外国に派遣される日本人及び外国から日本に派遣される外国人について、二重加入や年金受給資格の問題を解決するため、
- 「保険料の二重負担」を防止するために加入するべき制度を二国間で調整する(二重加入の防止)
- 年金受給資格を確保するために、両国の年金制度への加入期間を通算することにより、年金受給のために必要とされる加入期間の要件を満たしやすくする(年金加入期間の通算)
を目的として締結しています。
現在社会保障協定を結んでいる国や制度の詳しい内容に関しましてはは日本年金機構のいかのページにて確認をしてください。
【社会保障協定】
(日本年金機構ウェブサイトより)
https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/20141125.html
この加入期間が通算できる協定国の方が脱退一時金を受け取った場合、脱退一時金の計算の基礎となった期間は無くなってしまいます。
よって、脱退一時金を申請するのはご自身の選択とはなりますが、自身の年金がどのようになるのかを考えたうえできちんと脱退一時金の申請の選択をしてください。
脱退一時金の支給要件
……と言ってはみましたが、実際に申請をするには支給要件に該当をしている必要があります。
これが、専門家ではないと中々分かりにくいところになります。
下の図でまとめておりますので、確認してみてください。
注意すべきは「老齢年金の受給資格期間」の10年の事。
「厚生年金」の図には記載しておりますが、この期間の考え方は「国民年金」も「厚生年金」も同じです。先に書きました「学生納付特例」の制度を利用した場合、追納をしていなくてもその期間は「保険料免除期間」となるため、その期間を含めると10年を超える場合には、脱退一時金は支給されません。
自身が支給要件に該当するかに関しましては企業で顧問社労士様がいる場合には顧問社労士様に、あるいは日本年金機構に詳しく問い合わせしてみてください。
国民年金の脱退一時金
国民年金でも脱退一時金という制度はありますので、留学生の方で学生納付特例制度を利用せず、年金を納付し、帰国した場合には制度の活用ができますが、国民年金の場合は年間を通しても脱退一時金の裁定件数は非常に少ないものとなっておりますので、国民年金の脱退一時金に関しましては、以下日本年金機構のウェブサイトに出ています。
【脱退一時金の制度】
(日本年金機構ウェブサイトより)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html
【国民年金または厚生年金保険に加入していた外国人が日本を離れることになりました。このような場合、これまでに支払った保険料はどうなりますか。】
(日本年金機構ウェブサイトより)
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150401.html
【国民年金の脱退一時金として、いくらもらえますか。】
(日本年金機構ウェブサイトより)
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042802.html
厚生年金の脱退一時金
厚生年金の場合は、国民年金のように脱退一時金が一律にはなりません。
厚生年金の場合には、保険料が定額ではなく、考え方としては給与(正しくは標準報酬月額なんですが……)に対して「定率=18.3%(この率を労使で折半します。)」となるため、各々で脱退一時金の金額も変わります。
計算方法ですが以下のようになります。
……おそらく一般の人にはもう理解できないよう感じになっているのでは思います。
大体こんなもんだという理解で大丈夫かと。
重要なことは、実際に送金される金額からは計算された脱退一時金の額から所得税(20.42%)が源泉徴収された金額となります。また、送金されるときは外貨になって送金がされますが、その際の為替レートは申請をした時ではなく、送金をするときになります。
ただし、厚生年金保険の脱退一時金は退職所得とみなされるため、「退職所得の選択課税による還付申告」を「納税管理人」を経由して提出することにより、還付を受けることができる場合があります。
問題はこの「納税管理人」で、脱退一時金の申請は海外からでも行うことが出来ますが、所得税の還付申告に関しては日本国内にいる 「納税管理人」 しか行うことが出来ません。
海外に帰国した労働者は信頼できる人に「納税管理人」になっていただく必要がありますが、個人・法人を問わずなることが出来ますので、働いていた会社が納税管理人となれば、外国人の従業員も安心して依頼することが出来るのでは? と思っております。
詳しい内容は日本年金機構のウェブサイトを見てみましょう!
【脱退一時金の制度】
(日本年金機構ウェブサイトより)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html
【脱退一時金を請求するにあたって、どのような点に注意すればよいですか。】
(日本年金機構ウェブサイトより)
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042808.html
【厚生年金保険の脱退一時金として、いくらもらえますか。】
(日本年金機構ウェブサイトより)
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042803.html
まとめ
ここまで読んでいただいて、分かりましたでしょうか?
正直、分かりにくいですよね。
これでも今回の内容はあくまでも「ざっと」流しただけです。
海外から来られた留学生の皆様や、外国人労働者にとっては日本の年金制度について非常にわかりにくいことかと思います。また、実際に外国人に携わっていらっしゃる方々も、既にベテランの方ならご存じとは思いますが、年金制度について詳しく解説が出来るご担当者も少ないこともあり、外国人の皆様とトラブルになることも考えられます。
これからのダイバーシティが叫ばれている現代において、外国人の皆様への対応は不可欠となっております。実際には細かな説明が必要なこともありますが、まずは基本的なところを抑えていただいて、日本年金機構や税務署への問い合わせを行っていただくのが良いのかな? とは思っております。
参考となっておりましたら幸いです。
151社労士オフィスでは「脱退一時金」の申請代行も行ております!
当151社労士オフィスでは「脱退一時金」の申請代行も行っております。すでに帰国された方に関しましてはEMSで郵便のやり取りができることが条件とはなってしまいますが、現在この制度を利用して外国人従業員の皆様のモチベーションアップを考えていらしゃる企業様など、是非ご相談ください!